製造業が業務を見直す際のチェックポイント ~営業編 その3~

多くの製造業、特に中小、零細規模の会社において、営業に大きな課題を抱えているケースをよく見てきました。

特に、これまでは大手企業の下請け型のビジネスを展開していたり、商社経由で販売していたりという会社において、売上は得意先からの受注があって初めて成り立つものとの過去からの流れから、なかなか自社で営業して売上を伸ばしていくというイメージを持てない会社が多いのではないかと思います。

営業の成果として、仕事の引き合いが入ってきても、見積もり業務がきっちりとできていなければ、せっかくの営業の成果も利益に結びつかなくなってしまいます。

今回は、営業の成果を利益につなげていくために、見積もり業務にしぼって、どのような見積もりの仕組みを設計し、運用していかなければならないのかについて、説明していきたいと思います。

ポイント 積上げ原価の把握

受注時に重要でかつ誰にでもできない難しい業務として、販売価格(受注価格)を決める業務があります。

標準品や継続受注品が多い会社であれば、スポット案件や新規案件の見積もりがこれに該当すると思います。

引き合いがきた時に、「どれくらい工数がかかるかわからないけど急がされているので、とりあえずざっくりした見積もりを出しておこう」とか、「えいやっ、っていう感じで見積もりを出している」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?

「得意先が大手で受注価格は決まっているから、見積もりはいつもどおりで済ませている」という声もよく聞かれます。

しかし、これが問題となっているケースが結構あります。

見積もりをきっちりしていなかったために、利益を失っているケースが非常に多くあるのです。

見積もりを行う際には、必ず、案件毎に、積上げ原価の計算をしたうえで、必要な利益を確保できるようにして、販売価格を決定しないといけません。

しかし、積上げ原価を計算する仕組みを導入するためには、多くの時間と労力が必要になります。

受注価格に余裕がある時代はそんなに必要なかったかもしれませんが、価格競争が厳しくなり、受注価格が下がっている近年においては、積上げ原価を素早く正確に計算できる仕組みがないと、利益を着実に出していくことは難しくなります。

確かに、原価を積み上げて見積もることが難しい理由というのがあることも事実です。しかし、難しいからといって放置していても問題は解決しません。

そこで、原価を積み上げて見積もることが難しくなっている具体例とその対応策をご紹介しますので、見積もり方法の改善のためのヒントを掴んでください。

理由1 早く見積もりを出さないといけないので原価の積上げが難しい

引き合いが来て、次の日には見積もりの回答しないといけないので、原価の積上げが難しいという話を聞くことがあります。

しかし、早く見積もりをしないといけないからといって原価の積上げ計算できないというのが、本当に難しいかどうかをきっちりと検証していく必要があります。

まずは、早く積上げ原価を計算できるような仕組みを作っていくことができないかを考えてみましょう。

積上げ原価の計算をスピードアップする方法

① 積上げ原価を計算するための定型フォーマットを作成する。

積上げ原価を計算するために必要な計算フォームを作る必要があります。

これは、高価な生産管理ソフトを使わなくても、エクセルで十分です。

② 製造工程を分けて、どのような工程を何時間行うかをエクセルに記載する。

この際に重要になるのは、単純な加工時間だけではなく、以下のようなか製造に関するすべての時間を見積もります。

  • 見積もり
  • 材料や外注先への手配
  • 工程ごとの加工時間(段取り時間も含む)
  • 倉庫への配送
  • 出荷

これを、①エクセルで作成した定型フォーマットに入力していきます。

③ 積み上げ対象となる原価を次の3つに分ける。

生産過程でいろいろな原価が発生すると思います。

営業経費や間接部門の人件費、経費など、生産過程以外でも、さまざまな費用が発生しています。

これらを全部考慮すると非常に複雑になって、原価の積み上げが大変になります。

このため、積み上げ対象とする原価を簡素化して、3つに分けてみます。

  • 材料費 
  • 外注費
  • 固定費(人件費や設備の減価償却費、その他の経費など)

材料費は、主な材料の使用量を(注1)、外注費は、主な外注費(注2)を集計します。

また、固定費については、設備の減価償却費や人件費、経費などを織り込んだトータルの時間単価を計算(注3)し、この時間単価に②で集計した見積もり時間を乗じて固定費の見積額を計算します。

(注1) 材料については、よく使用する主な材料について、単価表を作成しておき、原価積み上げの際には、この単価表を参照して作成するとスムーズです。(この単価表を1年に1回程度見直す作業もルール化しておきます)

(注2) 外注費については、外注先に対して見積もりをしたものがベターです。

(注3) 時間単価については、会社の実態に応じていろいろな計算方法があると思いますが、一例としては、決算書(損益計算書や製造原価報告書)から毎期の固定費を把握したうえで、年間の標準的な作業時間(段取り時間等を含んだもの)を工程別に算定し、

固定費÷(工程別の標準作業時間の合計)

を目安にする方法などが考えられます。

④ ③で積上げた原価に、必要と考えられる必要利益率(粗利率ベース)を上乗せすることで、見積額を算定する。

①~④について、誰が見積もり計算をしても同じような結果になるマニュアルを作成したり、主な材料費や工程ごとの単価表を作成することで、効率化を図っていきます。

すぐに効率的な見積もり計算は難しいですが、これをやっていくことで、正確な見積もりができるようになるとともに、見積もり時に可能な限りコストを抑える生産方法を検討することができるようになるため、長期的には原価率の引き下げにつながってきます。

理由2 販売価格が決まっているから、きっちり見積もりしても利益はでない

「販売価格が決まっているから見積もりに時間をかけてもあまり意味がない」

という声も聞こえてきますが、ここにも問題が潜んでいると考えます。

なぜなら、仮に販売価格が決まっていても、製造原価は社内努力で引き下げる余地があるため、製造を開始する前にきっちりと製造プランを考えるか否かで、必要とする利益を確保できるかどうかが変わってくるからです。

販売価格が決まっていても、製造開始前に、もう一度、図面を見直したり、製造工程で効率化できるかどうか、使用する材料にコスト削減の余地はないかということを徹底的に見直しながら、積上げ原価を再計算してみて、必要利益を確保できるように改善活動を続けることが重要となります。

計算プロセスは1でご紹介した方法などと同じです。

こちらも、短期間で達成できるものではないとは思いますが、このようなマインドで精緻な見積もりをしていくという努力が、確実に利益を出していけるようになる一歩になっていきます。

理由3 はじめての作業が多く、工数が見積もれない

「受注の都度、まったく違う図面が必要となったり、これまで経験したことのない作業ばかりで不慣れな作業が続いているので、工数が見積もれない」

ということもあるとの声を聞くこともあります。

これらについても、「だから、時間をかけてきっちり見積もりしても意味ない」ということにはしないでください。

まず、検討しないといけないのは、本当に全く違う作業ばかりなのか?ということです。

もしかしたら、加工の方法を変えることで、共通化できないか?とか、標準的な部品などを使いまわせないか?

というように、見積もり作業の中で、設計段階、図面段階までさかのぼり、徹底的に効率化を検討する仕組みがあるかどうかが重要になります。

また、どう検討しても効率化できないということであれば、そもそもの営業戦略に問題があるかもしれません。

毎回、毎回違うノウハウが必要になるような受注が入ってくるということは、営業段階でターゲットの絞り込みや安値受注をしているケースが考えられます。

「なんでもやります!やすくやります!」という営業をされていると、このような課題を抱えてしまうことが多いように感じます。

例えば、どうしても入り込みたい顧客がいて、戦略的に不慣れな作業を安く受けなければならないということもあると思いますが、これが常態化していたら、まず利益は残りません。

ですので、このようなケースでは、利益が出ないのを工場のせいにする前に、営業戦略の見直しをしてみるのも効果的な場合が多いです。